50 大量出血時に頻脈を呈しにくくする常用薬剤はどれか。1つ選べ。
1 鉄剤
2 利尿薬
3 β遮断薬
4 抗凝固薬
5 亜硝酸薬
解答 3 11版P.464
【救命士王による回答】
頭部打撲、頭部出血等では「血液サラサラ飲んでますか?」と聴取することが多い。
【AIによる回答】
第50問「外傷・出血時の代償反応と薬剤の影響」について、自律神経系への作用機序を踏まえて詳しく解説します。
簡易解説
正解は3です。
通常、大量出血などで血圧が低下すると、生体は代償機構として交感神経を活性化させ、心拍数を増加(頻脈)させて心拍出量を維持しようとします。しかし、β(ベータ)遮断薬は心臓のβ受容体をブロックし、心拍数の上昇を抑制する作用があるため、重篤な出血時であっても頻脈が現れにくくなります。これにより緊急度の判断を誤るリスク(遮蔽されたショック)があるため、救急現場では注意が必要です。
詳細解説
救急救命士がショック状態の傷病者を評価する際、バイタルサインは最も重要な指標の一つです。しかし、傷病者が「普段どのような薬を飲んでいるか」によって、本来現れるべき生体反応が抑制されることがあります。本問は、その代表例であるβ遮断薬の特性を問うています。
1. 出血時の正常な代償機構
大量出血により循環血液量が減少すると、頸動脈小体や大動脈弓にある圧受容器が血圧低下を感知します。これにより負のフィードバックが働き、交感神経活動が亢進します。交感神経から放出されたノルアドレナリンが心臓のβ1受容体に結合することで、「心拍数の増加」と「心収縮力の増強」が起こり、血圧を維持しようとします。
2. 正解の根拠:β遮断薬の作用
β遮断薬(ベータ・ブロッカー)は、主に高血圧、頻脈性不整脈、狭心症、心不全などの治療に用いられる薬剤です。
この薬を常用している場合、心臓のβ受容体が既に薬剤で塞がれているため、出血という危機的状況下で交感神経が興奮しても、心拍数が上がることができません。その結果、本来なら心拍数120回/分を超えるような出血性ショックの状態でも、心拍数が60〜80回/分程度の「見かけ上の正常範囲」に留まってしまうことがあります。これを「遮蔽された頻脈」と呼び、緊急度の過小評価に繋がる危険なサインとなります。
3. 他の選択肢の解説
選択肢1(鉄剤): 貧血の治療に用いられます。出血時の心拍数変化に直接的な抑制作用はありません。
選択肢2(利尿薬): 尿量を増やして循環血液量を減らすことで血圧を下げます。むしろ脱水傾向になりやすいため、出血時にはショックを悪化させる要因にはなりますが、頻脈を抑制する効果はありません。
選択肢4(抗凝固薬): 血液を固まりにくくする薬(ワーファリンやDOACなど)です。出血そのものが止まりにくくなり、出血量を増大させる「重症化因子」にはなりますが、頻脈という反応自体は抑制しません。
選択肢5(亜硝酸薬): 血管を拡張させて心臓の負荷を減らす薬(ニトログリセリンなど)です。血圧低下を助長する可能性はありますが、頻脈を抑制する作用はありません。
4. 救急救命士としての臨床的視点
外傷現場において、バイタルサインと受傷機転の重篤さが一致しない(血圧が低いのに頻脈がない、あるいは出血量が多いのに脈が速くない)場合、救急救命士は必ず「お薬手帳」の確認や家族への聴取を行い、β遮断薬の服用歴を疑わなければなりません。
特に高齢者は心疾患でβ遮断薬を服用しているケースが多く、生理的な代償反応が乏しいため、「脈が速くないから大丈夫」という安易な判断は禁物です。
このように、薬剤が身体の「SOSサイン」を隠してしまう可能性があることを理解しておくことが、正確な重症度・緊急度判断には不可欠です。
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