2026年1月6日火曜日

第48回D問題 第18問 急性大動脈解離の合併症とその解剖学的理解を問う非常に重要な問題

 第48回救急救命士国家試験D問題はこちら

18 60歳の女性。突然、胸から背中へ移動する痛みを訴えた後、左上下肢が動かなくなり、家族が救急要請した。

 救急隊到着時観察所見:意識JCS10。呼吸数18/分。脈拍96/分、整。血圧100/62mmHg(右上肢)、208/120mmHg(左上肢)。体温37.2°C。SpO2値97%顔面を含む左片麻痺と構音障害とを認める。頸静脈怒張を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。

 この病態を引き起こした原因はどれか。1つ選べ。

1 右冠動脈の閉塞

2 胸膜腔の液体貯留

3 心膜腔の液体貯留

4 大動脈弁の機能不全

5 腕頭動脈の血流障害


解答 5


【AIによる回答】


第18問は、急性大動脈解離の合併症とその解剖学的理解を問う非常に重要な問題です。


解説:急性大動脈解離と血管の解剖

正解は5(腕頭動脈の血流障害)です。

この傷病者の病態は、以下の3つの特徴的な所見から紐解くことができます。

  1. 移動する激痛: 「胸から背中へ移動する痛み」は、大動脈の壁が裂けていく(解離が進む)際の典型的な症状です。

  2. 左右の血圧差: 右上肢(100/62mmHg)と左上肢(208/120mmHg)で、100mmHg以上の大きな血圧差があります。これは、心臓から出た直後の大動脈から分岐する枝のどこかが、解離によって塞がっていることを示しています。

  3. 神経症状(左片麻痺): 突然の左片麻痺と構音障害は、脳(特に右脳)への血流が途絶えたことを示唆します。

なぜ 5 腕頭動脈(わんとうどうみゃく)なのか:

  • 大動脈弓からは、右から順に ①腕頭動脈②左総頸動脈③左鎖骨下動脈 が分岐しています。

  • 腕頭動脈は、さらに「右総頸動脈(右脳へ)」「右鎖骨下動脈(右上肢へ)」に分かれます。

  • この腕頭動脈の根元が解離によって閉塞すると、「右脳への血流が止まる(結果として左片麻痺)」かつ「右上肢への血流が止まる(結果として右上肢の血圧が下がる)」という、本症例の状況がすべて説明できます。


他の選択肢の分析

  • 1 右冠動脈の閉塞:

    心筋梗塞を引き起こしますが、左右の腕の血圧差や片麻痺の直接的な原因にはなりません。

  • 2 胸膜腔の液体貯留(胸水・血胸):

    呼吸音の減弱などを招きますが、血圧差や麻痺の原因ではありません。

  • 3 心膜腔の液体貯留(心タンポナーデ):

    解離が心臓側に進むと起こりますが、その場合は「血圧低下(ショック)」や「頸静脈怒張」が見られるはずです。本症例では頸静脈怒張を認めていません。

  • 4 大動脈弁の機能不全(AR):

    解離が逆流して大動脈弁を壊すことがありますが、心雑音(異常音)を認めない点から否定的です。


救急救命士としての臨床的視点:大動脈解離の「カメレオン症状」

  1. 脳梗塞との誤認に注意:

    片麻痺だけを見ると脳梗塞(脳卒中)だと思ってしまいますが、その背景に「胸背部痛」や「血圧差」がある場合は、大動脈解離を第一に疑わなければなりません。もし大動脈解離を見逃して脳梗塞の治療(血をサラサラにする薬の投与など)を始めてしまうと、解離を悪化させ致命的になります。

  2. 血圧測定は必ず両腕で:

    大動脈解離が疑われる場合、現場で左右両方の血圧を測ることは、搬送先(心臓血管外科の有無)を決定する極めて重要な判断材料になります。

  3. 慎重な搬送:

    解離は刻一刻と進みます。搬送中の振動や血圧の急激な変化(特に上昇)を抑えるよう、静かかつ迅速に搬送します。

まとめ:

胸背部痛 + 片麻痺 + 左右の血圧差 = 急性大動脈解離(スタンフォードA型)

この3点セットは、救急現場における「最警戒」のサインです。

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プロフィール

  某政令指定都市 指導救命士 指導係長を経て救命士王となる。