35 20歳の男性。オートバイ走行中に自己転倒し、目撃者が救急要請した。
救急隊到着時観察所見:意識JCS30。呼吸数38/分。脈拍130/分、整。血圧83/44mmHg。SpO2値88%。頸静脈怒張と右胸部の膨隆とを認める。頸部から胸部に握雪感がある。聴診で右呼吸音が減弱している
この傷病者のショックの原因はどれか。1つ選べ。
1 右心房圧の低下
2 静脈還流の減少
3 末梢血管の拡張
4 心筋収縮力の低下
5 左胸腔内圧の低下
解答 2
【AIによる回答】
第35問は、外傷性ショックの中でも極めて緊急度が高い「緊張性気胸」の病態生理に関する問題です。
解説:緊張性気胸による循環不全のメカニズム
正解は2(静脈還流の減少)です。
傷病者の所見から、右胸腔内の圧力が異常に高まり、心臓を圧迫している状態が読み取れます。
2 静脈還流(じょうみゃくかんりゅう)の減少:
緊張性気胸の発生: 右胸部の膨隆、呼吸音の減弱、および「握雪感(皮下気腫)」から、右の肺が破れ、漏れ出した空気が胸の中にどんどん溜まっていることがわかります。
心臓への圧迫: 溜まった空気の圧力で胸腔内圧が上昇し、肺だけでなく心臓や大きな血管(上大静脈・下大静脈)を押し潰します。
ショックの機序: 大静脈が圧迫されると、全身から心臓へ戻ってくる血液(静脈還流)がブロックされてしまいます。心臓に血が戻らなければ、送り出すこともできないため、急激な血圧低下(80/54mmHg)を招きます。これを「閉塞性ショック」と呼びます。
頸静脈怒張: 心臓へ戻れない血液が首の静脈に渋滞するため、パンパンに膨らんで見えます。
他の選択肢の分析
1 右心房圧の低下:
胸腔内圧が高まり、心臓が外から押されているため、右心房内の圧力はむしろ上昇します(ただし、血液が入ってこれない高圧状態です)。
3 末梢血管の拡張:
これはアナフィラキシーや敗血症、脊髄損傷などで見られる機序です。本症例は「物理的な閉塞」が原因です。
4 心筋収縮力の低下:
心臓そのものが壊れる(心筋梗塞など)「心原性ショック」の機序です。
5 左胸腔内圧の低下:
異常が起きているのは「右」胸部です。また、気胸では内圧は上昇します。
救急救命士としての臨床的視点:緊張性気胸の「3徴」
「呼吸音減弱 + 頸静脈怒張 + ショック」:
この3つが揃ったら、直ちに緊張性気胸を疑います。バッグ・バルブ・マスクで強く換気しすぎると、さらに胸腔内圧を上げて悪化させる(死を早める)可能性があるため、慎重な換気管理が必要です。
皮下気腫(握雪感)のサイン:
「雪を握るようなシャリシャリした感触」は、肺から漏れた空気が皮膚の下まで入り込んでいる証拠です。これを見つけた場合、その下にある肺や胸膜に重大な損傷があることを確信すべきです。
脱気(だっき)の必要性:
緊張性気胸は、病院到着前に心停止に至る可能性が非常に高い病態です。救急救命士は、処置拡大により「注射針による胸腔穿刺(脱気)」が行える場合があります。これにより、胸の中に溜まった空気を逃がし、静脈還流を回復させることが唯一の根本的な現場救命策となります。
まとめ:
「緊張性気胸 = 胸の中がパンパン = 静脈が潰れて血が戻らない(静脈還流の減少) = ショック」
この解剖学的な連鎖をしっかり理解しておきましょう。
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